監修を依頼する際、最初に監修候補へ届ける依頼書(提案書)は、検討してもらえるかどうかを左右する資料です。ところが、検索すると汎用の企画書テンプレートや、記事監修の話題が多く、食品・飲食の商品監修に絞って「何を書くか」を整理した情報は多くありません。本記事では、貴社が商品開発や店舗開発でシェフ・料理人に監修を依頼する場面を想定し、依頼書に書くべき10項目、記載例、NDAの前後での出し分け、書く前に社内で決めておくことを、編集部の整理として解説します。契約書の作り方や費用の相場そのものは、関連記事で扱います。
監修依頼書・提案書の書き方|シェフに伝える10項目と記載例
依頼書が果たす役割と、契約書との違い
監修の依頼書は、条件を確定させる書面ではなく、監修候補が「受けるかどうか」「受けるならどの条件か」を検討するための材料をそろえる書面です。契約書は、検討を経て合意した内容を拘束力のある形で残す書面なので、役割が異なります。
企画書の一般的な構成は、基本情報、企画の全体像、企画の詳細、スケジュールと予算、補足情報の5つの要素で整理できるとされています※1。この構成は、監修依頼書にもそのまま当てはめられます。違いは、読み手が「貴社の社内決裁者」ではなく「依頼を受ける側の専門家」である点です。社内向けの企画書であれば市場分析や投資対効果に紙幅を割きますが、監修候補向けの依頼書では、「何を、どこまで、いつまでに確認してほしいのか」「貴社は何を用意し、何を判断するのか」が明確かどうかが重要になると考えられます。
なお、依頼書は営業資料ではありません。商品の魅力を訴求するだけでなく、判断に必要な前提条件を、過不足なく示すことを目的にします。
依頼書に書く10項目
依頼書に盛り込む項目を、編集部の整理として10個に分けます。すべてを1枚に収める必要はなく、概要版と詳細版に分ける考え方は後述します。
| No. | 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|---|
| 1 | 依頼の目的と背景 | 新商品の開発、既存商品の刷新、店舗の新メニュー強化など |
| 2 | 商品・業態の概要 | カテゴリ、想定ターゲット、価格帯、販路、発売(開店)時期 |
| 3 | 監修を依頼したい範囲 | レシピの確認、企画段階からの関与、表示・表現の確認など |
| 4 | 役割分担 | 貴社が担う工程と、監修者に期待する工程の線引き |
| 5 | 現時点の資料 | 試作品、レシピ案、商品仕様書、規格書の有無 |
| 6 | スケジュール | 試作の回数、確認の期限、発売(開店)日 |
| 7 | 名義・クレジットの使用範囲 | パッケージ、広告、SNS、店頭販促物への使用の有無 |
| 8 | 報酬の考え方 | 固定報酬型・料率型の希望、予算の枠の示し方 |
| 9 | 契約・秘密保持 | NDAの有無、契約期間、独占の希望 |
| 10 | 連絡先と回答のお願い | 窓口担当者、回答期限、面談の希望 |
1〜2 目的と商品概要
目的と商品概要は、監修候補が「自分の強みが活きる案件か」を判断するための入口になります。商品の特徴を並べるより、「なぜ監修が必要だと考えているのか」を書くと伝わりやすくなります。たとえば、味の方向性を決めきれていない、量産化に向けて品質の基準を持ちたい、店頭での説得力を持たせたい、といった具体的な理由です。
3〜4 依頼範囲と役割分担
特に重要になるのが依頼範囲です。レシピの確認だけを依頼するのか、企画段階から関わってほしいのか、パッケージの表現の確認まで含めるのかで、監修候補の稼働は大きく変わります。範囲が曖昧なままでは、見積もりの前提がそろわず、後から追加の依頼や認識のずれが生じやすくなります。監修の種類や依頼範囲の整理は、商品監修とは?依頼方法と費用相場、シェフ選定の要点を解説でも解説しています。
役割分担は、「貴社が決めること」と「監修者に確認してもらうこと」を分けて書くのが実務的です。たとえば「最終的な価格設定と販路は貴社が決める」「味の方向性とレシピの再現性の確認を監修者にお願いする」といった形です。共同開発に近い関与を想定している場合は、監修との違いを整理した監修と共同開発の違いとは|契約形態・責任範囲・費用の考え方を解説も参考になります。
5〜6 資料とスケジュール
現時点の資料は、「ある/ない」を正直に書くことが大切です。試作品やレシピ案があるのか、ゼロからの開発なのかによって、監修候補が想定する工数が変わります。食品の場合、商品の仕様を取引先に示す「食品規格書」は、基本情報、原材料・添加物の配合表(アレルゲン情報を含む)、栄養成分、企業情報などを記載するシートとされています※2。規格書がすでにある場合は、概要の把握に役立つため、詳細版の添付資料として挙げておくと検討が進みやすくなります。
スケジュールは、発売(開店)日だけでなく、試作の回数の想定と、貴社側の確認期限を併記すると具体的になります。発売日から逆算した期間の考え方は、食品の商品開発にかかる期間は?企画〜発売までの工程別スケジュールと延びる要因で整理しています。
7 名義・クレジットの使用範囲
監修者の名前や肖像をパッケージ、広告、SNSなどでどう使うかは、依頼書の段階で伝えておくべき項目です。使用範囲が広いほど、監修候補にとっては検討事項が増えます。また「監修」と表示する以上、実態との整合が問われます。消費者庁の整理では、優良誤認表示は商品・サービスの品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示とされています※3。監修の実態が伴わないまま「監修」を訴求する表示は、この観点で確認が必要です。表示のルールは「監修」表記のルールとは?景品表示法の優良誤認にならない条件を解説、名義使用の契約条件はシェフの名義使用(ネームライセンス)契約の注意点|範囲・期間・肖像権で解説しています。
8〜9 報酬の考え方と契約・秘密保持
報酬は、金額を確定して書く必要はありません。ただし、固定報酬型を想定しているのか、料率型を想定しているのか、あるいは両者の組み合わせなのかを示しておくと、検討する側が条件の方向性をつかみやすくなります。費用の目安や総額の組み立て方は、商品監修を依頼するといくらかかる?料率・固定報酬の考え方で整理しています。予算の枠を示すかどうかは、社内の決裁範囲と交渉方針に応じて判断してください。
契約・秘密保持については、NDAの要否と、契約期間・独占の希望を書いておきます。契約書の記載項目は監修契約書のひな形|記載すべき条項と注意点をわかりやすく解説で、NDAの勘所は商品開発の秘密保持契約(NDA)の注意点|レシピ・ノウハウの権利帰属を守るで解説しています。
10 連絡先と回答のお願い
最後に、窓口となる担当者、回答の期限、面談の希望を書きます。「ご検討いただける場合は、〇月〇日までに可否のご連絡をいただけますでしょうか」と期限を示すことで、検討する側も段取りを立てやすくなります。
記載例(概要版)
次の例は、架空の冷凍食品の依頼を想定した記載の型です。数値や固有名詞は、貴社の内容に置き換えてください。
件名:新商品(冷凍食品)の監修ご相談
- 目的:自社ブランドの冷凍食品を新たに発売するにあたり、味の方向性とレシピの再現性についてご助言をいただきたく、ご相談いたします。
- 概要:カテゴリは冷凍の主菜、想定ターゲットは〇〇、価格帯は〇〇円前後、販路は〇〇、発売時期は〇年〇月を予定しています。
- 依頼範囲:レシピ案の確認、試作品の試食と助言(〇回程度)。パッケージの表現確認は〇〇を想定しています。
- 役割分担:価格設定・販路・製造委託先の選定は当社が行い、味の方向性と再現性の確認をお願いしたく存じます。
- 資料:レシピ案と試作品が〇点あります。詳細はNDA締結後にお渡しします。
- スケジュール:〇月に第1回の試食、〇月に量産試作の確認を想定しています。
- 名義:パッケージおよび公式サイトでの表記を想定し、範囲は別途ご相談したく存じます。
- 報酬:固定報酬型・料率型を含め、条件はご相談の上で決めたいと考えています。
- 契約:NDA、続いて監修契約を締結したく存じます。
- 連絡先:担当〇〇(メール〇〇)。〇月〇日までにご連絡をいただけますと幸いです。
このように、各項目を1〜2文にまとめると、概要版は1〜2枚に収まりやすくなります。
NDAの前後で出す情報を分ける
依頼書の段階では、レシピや配合、原価、販路などの詳細を出すかどうかが悩みどころです。編集部の整理としては、次の二段構成が考えられます。
| 段階 | 出す情報の例 | 出さない情報の例 |
|---|---|---|
| NDA前(概要版) | 目的、カテゴリ、ターゲット、依頼範囲、時期、報酬の方向性 | レシピ・配合、原価、取引先名 |
| NDA後(詳細版) | レシピ案、試作品、規格書、販路、スケジュールの詳細 | 契約条件が確定するまでは、他社との交渉状況 |
どこまでを概要版に含めるかは、貴社の情報管理の方針と、監修候補との関係性によって変わります。法務担当者や顧問の専門家にも事前に確認してください。
依頼書を書く前に社内で決めておく5つのこと
依頼書は、社内の意思決定が済んでいないと書けない項目が多くあります。書き始める前に、次の5点を決めておくと、監修候補とのやりとりが円滑になると考えられます。
- 誰が最終判断者か:監修者の助言を採用するかどうかを、誰が決めるのかを明確にします。
- 依頼範囲の上限:レシピ確認までか、企画段階からか、表示の確認まで含めるかを決めます。
- 名義の使用範囲:パッケージのみか、広告・SNSまで含めるかを決めます。
- 予算の枠と契約形態の希望:固定報酬型・料率型のどちらを軸にするかを整理します。
- 試作と確認の回数の想定:何回までを基本の範囲とし、超えた場合の扱いをどうするかを決めます。
これらが決まっていない状態で依頼書を送ると、検討する側から質問が相次ぎ、やりとりが長引く可能性があります。
避けたい書き方
依頼書で、避けたほうがよいと考えられる書き方を整理します。いずれも、検討する側が判断しにくくなる点に共通しています。
- 依頼範囲が「ご助言全般」とだけ書かれている:範囲が読み取れず、見積もりの前提がそろいません。
- 名義の使用範囲に触れていない:後から広告やSNSでの使用を求めると、追加の調整が必要になります。
- 期限が示されていない:「ご検討ください」だけでは、回答のタイミングが読めません。
- 機密情報を概要版に含めている:NDA前に詳細を出すと、情報管理上のリスクがあります。
- 商品の魅力だけを並べている:判断に必要な前提条件が不足し、検討が進みにくくなります。
監修候補への送り方
依頼書は、送って終わりではなく、その後のやりとりまで含めて設計すると進めやすくなります。監修候補の探し方は監修シェフの探し方|キャスティング会社・直接依頼・紹介の比較で解説しています。キャスティング会社などを経由する場合は、依頼書の形式を先方の様式に合わせる必要があるかどうかを、最初に確認しておくとよいでしょう。
また、依頼書を送った後は、返答が来るまでの間に、貴社側で契約書のたたき台や社内の稟議を進めておくと、監修候補から前向きな回答を得たときに、スムーズに次の段階へ移れます。
まとめ
監修依頼書(提案書)は、条件を確定する書面ではなく、監修候補が検討するための材料をそろえる書面です。基本の10項目は、依頼の目的と背景、商品・業態の概要、依頼範囲、役割分担、現時点の資料、スケジュール、名義・クレジットの使用範囲、報酬の考え方、契約・秘密保持、連絡先と回答のお願いです。特に依頼範囲と名義の使用範囲は、見積もりと契約の前提になるため、具体的に書く必要があります。NDAの前後で情報を出し分け、書く前に社内の判断者・範囲・予算・回数を決めておくことで、監修候補とのやりとりがスムーズになると考えられます。なお、本記事の項目や出し分けの考え方は編集部の整理であり、個別の案件では法務担当者や専門家への確認が必要です。
参考資料
※1 welog「【企画書の書き方】基本構成と記載例、ポイントやテンプレートを紹介」 ※2 「とある飲食チェーン社長の独り言」「【2024年最新版】食品規格書とは?作り方も紹介」 ※3 消費者庁「表示規制の概要」
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