新商品や新メニューを発売する前に、試食会で意見を集めたいと考える企画担当者は少なくありません。ただ、試食会は「試食してもらって感想を聞く」だけでは、結果をどう判断すればよいのかが決まらないまま終わってしまうことがあります。本記事では、試食会の目的の整理から、社内試食・モニター調査・会場調査の使い分け、評価項目の設計、提示順や衛生面の注意、結果を発売判断につなげる方法までを、公開情報の出典付きで整理します。外食店の新メニューと食品メーカーの新商品のどちらでも使えるように、共通する考え方を中心に解説します。
新商品の試食会の企画と進め方|3方式の使い分けと評価設計
試食会は「目的」を先に決める
試食会の設計は、目的によって大きく変わります。編集部の整理として、目的を3つに分けて考えると、参加者や評価方法を選びやすくなります。
| 目的 | 主な参加者 | 評価の中心 | 向く方式 |
|---|---|---|---|
| 味・品質の改善点を見つける | 社内の従業員、調理・開発の関係者 | 具体的な改善コメント | 社内試食 |
| 社内で採用の合意を得る | 経営層、営業・販売の担当者 | 採用の可否と理由 | 社内試食 |
| 購入意向を確認する | ターゲットに近い一般の消費者 | 好ましさと購入意向 | モニター調査、会場調査 |
飲食店向けの解説では、従業員をお客様に見立ててメニューへの意見をもらい、料理の質の向上や、調理・提供時の課題の事前発見に役立てる、といった目的が紹介されています※1。これは上の表でいう「改善点を見つける」目的に近い使い方です。
目的を1つに絞っておく理由は、複数の目的を同時に満たそうとすると、参加者の選び方と質問の設計が中途半端になりやすいためです。たとえば「改善点を探したい」ために社内の従業員を集めたのに、結果を「購入意向の根拠」として扱おうとすると、参加者の偏りが問題になる可能性があります。
3つの方式と使い分け
試食の方法は、社内試食、モニター調査、会場調査の3つが代表的です。調査会社の公開情報では、このほかに試食を行わず、商品の特徴を説明文で示して評価してもらう「コンセプトテスト」も紹介されています※2。
| 方式 | 内容 | 公開されている目安・特徴 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 社内試食 | 従業員が試食し、点数とコメントを記入する | 社内アンケートをWeb回答方式で行う場合、2〜3日で結果を取得できる例がある。参加者の偏りに注意 | ※1、※2 |
| モニター調査 | サンプルをモニターに送り、自宅で試食してもらう | 会場調査より費用を抑えられる。試食条件の統制が難しく、ターゲット層の偏りが課題 | ※2 |
| 会場調査 | 調査会場で試食してもらい、その場で評価を集める | ある調査会社の例では、100人規模で約150万〜200万円。会場手配や商品管理の手間がかかる | ※2 |
| コンセプトテスト | 試食なしで、説明文を見て評価してもらう | ある調査会社の例では、100人規模・15問程度で約20万〜30万円、最短1〜2週間で結果を取得 | ※2 |
費用の数字は、特定の調査会社が公開している目安であり、依頼先や条件によって変わります。ここでは、方式ごとの費用の桁の違いを把握する材料として捉えてください。
社内試食の位置づけ
社内試食は、外部に委託する調査と比べて手間を抑えやすい傾向がある一方で、参加者が商品の背景を知っている点に注意が必要です。調査会社の解説では、社内アンケートを行う場合は、調査対象者の条件、サンプルサイズ、調査方法を明記し、最低50人以上を推奨したうえで、恣意的にならないよう仕様を事前に決めておくことが挙げられています※2。人数が確保できない場合は、結果を「参考意見」として扱うなど、扱い方を事前に決めておく必要があります。
社外の方式を検討するタイミング
購入の意思決定や、価格の設定、発注数量の判断が必要な場面では、社外の消費者の評価が必要になる可能性があります。ただし、費用や期間が増えるため、すべての商品で会場調査を行う必要はありません。たとえば、社内試食で改善点を洗い出したうえで、発売の判断に関わる重要な商品に限ってモニター調査や会場調査を組み合わせる、といった段階的な設計が考えられます。
評価項目と評価方法の設計
評価の設計では、「何を、どの尺度で聞くか」を試食の前に決めておきます。
評価項目
中小企業診断士事務所の解説では、試食後の評価項目として、味、香り、食感、パッケージを数値化することが紹介されています※3。この4項目を基本にして、貴社の商品に合わせて、甘さ・塩味の強さ、量の満足感、価格に対する納得感などを追加する方法が考えられます。
自由記述のコメント欄は、点数の理由を把握するために役立ちます。点数だけでは「なぜその評価なのか」が分からず、改良の方向性を決めにくいためです。社内試食の解説でも、料理の簡単な特徴と意図を記載した試食メニューの一覧表を用意し、コメントと5段階ほどの点数をつけてもらう方法が紹介されています※1。
尺度
同じ中小企業診断士事務所の解説では、「非常に好ましい」から「非常に好ましくない」までの9段階で評価してもらう「9点ヘドニック法」を使うと、主観に頼らないデータが得られると説明されています※3。9段階は細かい差を拾いやすい反面、回答者の負担がやや増える可能性があります。社内の簡易な試食であれば5段階、データを分析したい場合は9段階、のように目的に合わせて選ぶ方法が考えられます。
分析型と嗜好型の違い
官能評価では、評価する人を「パネル」と呼びます。広島県の食品工業技術センターの解説では、パネルは分析型と嗜好型に分けられるとされています※4。
- 分析型パネル:評価対象の特性を評価し、品質の違いを識別するため、鋭敏な感度が必要で、味覚感度テストなどで能力の確認が求められる
- 嗜好型パネル:評価対象への好みを評価するため、一般消費者の嗜好を代表する人選が重要
新商品の試食会で知りたいのが「消費者に好まれるか」であれば嗜好型、「試作品の間の味の違いを見分けたい」のであれば分析型の考え方が参考になります。社内の従業員が参加する場合は、立場によって、嗜好型の意見が含まれることも、分析型に近い意見が含まれることもあります。どちらの意見として扱うかを、集計の前に分けておくと、判断を整理しやすくなります。
結果を歪めないための運用
同じ試食会でも、運用の仕方によって結果が変わります。公開されている官能評価の解説から、実務で参考になる点を整理します。
- 提示順を考慮する:先に提示された試料が過大評価されることが多いとされ、提示順を逆にして同数回評価する方法が対策として挙げられています※4。
- 試料を記号で示す:試料の商品名を隠し、無意味な記号を使うことで、先入観の影響を減らす方法が紹介されています※4。
- 感覚の疲労に配慮する:試料の数が多い場合は、休憩を挟むか、分割して実施する方法が挙げられています※4。
- 結果を共有する:社内試食の解説では、全員の点数を集計して結果を発表し、意見がどう判断されたか(採用・不採用の理由を含む)を共有することが重要とされています※1。
試食する人数は目的によって変わりますが、評価のばらつきが大きい場合は、人数が少ないと傾向が読み取りにくくなる可能性があります。結果を判断に使う場合は、「何人以上の回答があれば判断する」という基準を事前に決めておくと、結果を恣意的に解釈することを避けやすくなります。
アレルギーと衛生面の事前確認
試食会では、参加者の安全の確保が最優先です。
特定原材料は、2026年4月1日にカシューナッツが追加されて、えび、カシューナッツ、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生の9品目になりました。経過措置は2028年3月31日までとされています※5。試食会で提供する試作品は、市販前でも、使用する原材料を整理し、参加者に試食前に伝える運用が考えられます。参加者の申込時に、アレルギーの有無を確認する欄を設けておく方法もあります。
消費者庁は、外食・中食でのアレルギー対策について、原因食物の意図しない混入(コンタミネーション)に注意するよう呼びかけています※6。試作品を作る厨房や調理器具で、他の食品の原材料が混ざらないよう確認しておく必要があります。
試食会の開催形態によっては、所管の保健所への確認が必要になる場合があります。開催前に、会場の使用条件や提供方法について、問い合わせておくと安心です。
なお、新メニューを導入する際のアレルゲンや表示の確認は、メニュー開発チェックリスト30項目|原価・アレルギー・表示の抜け漏れを防ぐにも整理しています。
試食会の進め方|7ステップ
目的から結果の活用までを、編集部の整理として7ステップにまとめます。
- 目的を1つに絞る:改善点の洗い出し、社内の合意、購入意向の確認のうち、今回の試食会で何を決めるかを決めます。
- 方式と参加者を決める:目的に合わせて、社内試食、モニター調査、会場調査から選びます。
- 評価項目と尺度を決める:味、香り、食感、パッケージなどの項目と、5段階か9段階かを決めます。
- 判断基準を事前に決める:平均点が何点以上なら採用、何点未満なら改良、のように、結果を見る前に基準を決めておきます。
- 試食品と運用を準備する:提示順、記号での表示、アレルゲンの確認、衛生管理の手順を整えます。
- 実施して回収する:評価シートを回収し、コメントの内容を整理します。
- 結果を共有して判断する:集計結果と、採用・不採用の理由を関係者に共有し、改良か発売かを判断します。
4つめの「判断基準を事前に決める」は、見落とされやすい工程です。結果を見てから基準を決めると、期待していた結果に合わせて解釈してしまう可能性があります。基準が決まっていれば、「改良して再度試食会を行う」という判断も、納得を得て進めやすくなります。
試食会が目的を果たしにくくなるパターン
編集部の整理として、試食会が目的を果たしにくくなる典型的なパターンを挙げます。すべての試食会に当てはまるわけではありません。
- 目的が曖昧:何を決めるための試食会か決まっておらず、感想を集めて終わる。
- 参加者がターゲットとずれている:購入意向を知りたいのに、社内の担当者だけで実施する。
- 評価項目が少なすぎる、または多すぎる:「おいしいか」だけでは改善点が分からず、項目が多すぎると回答の負担が増える。
- 判断基準が事後に決まる:結果を見てから基準を決めるため、解釈が恣意的になる。
- 結果を共有しない:参加者に結果が返らず、意見を出す動機が下がる。
試食会の後の進め方
試食会の結果は、改良の工程と発売判断の工程につながります。開発の期間と工程の全体像は、食品の商品開発にかかる期間は?企画〜発売までの工程別スケジュールと延びる要因で整理しています。店舗で新メニューを定着させる判断は、飲食店の新メニューを定番化させる方法|判断基準と社内合意形成のコツ、グランドメニュー全体の見直しはグランドメニュー改定の進め方|分析・開発・検証の実務フローとスケジュールが参考になります。
自社だけで試食会を設計することが難しい場合は、メニュー開発や商品開発の外部の専門家に、評価設計の相談をするのも一つの方法です。メニュー開発の依頼先や費用の目安は、メニュー開発の依頼費用は1品1万〜10万円|依頼先4タイプの選び方で解説しています。
まとめ
新商品の試食会は、目的を先に決め、目的に合った方式と参加者を選ぶことが出発点です。社内試食は費用を抑えやすい一方で、参加者の偏りに注意が必要で、購入意向の判断にはモニター調査や会場調査との組み合わせが考えられます。評価では、味・香り・食感・パッケージなどの項目を数値化し、提示順や試料の表示の仕方にも配慮します。特定原材料は2026年4月から9品目になっているため、アレルギーの事前確認も欠かせません。結果を見る前に判断基準を決めておけば、改良か発売かの判断を落ち着いて進められます。なお、本記事の進め方と失敗パターンは編集部の整理で、公開情報の目安は特定の事業者の条件に基づくものです。貴社の条件に合わせて調整してください。
参考資料
※1 株式会社ユビレジ「試食会は従業員満足度を向上する!?メニューの試食会を実施しよう」 ※2 株式会社グルーブワークス「消費者による商品評価データの取りかた」 ※3 KUBO中小企業診断士事務所「食品の「新」商品開発や「新」メニュー開発の実務手順・成功法則」 ※4 広島県 食品工業技術センター「食品の官能評価について」 ※5 大阪府「食品表示(事業者の方へ)」 ※6 消費者庁「外食・中食での食物アレルギー表示」
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