期間限定メニューが好調でも、勘や店長の感覚だけで定番化を決めると、原価割れや在庫過多につながりかねない。本記事では、飲食店が新メニューを定番メニューへ昇格させる際に確認すべき判断基準と、社内合意形成・オペレーション定着までの実務ポイントを解説する。
飲食店の新メニューを定番化させる方法|判断基準と社内合意形成のコツ
期間限定メニューを定番化する意義とメリット
期間限定メニューは「今しか食べられない」という特別感からSNSでの話題性を生みやすく、新規顧客の獲得や既存客の再来店動機づくりに有効な施策とされている(※1)。一方で、話題化・集客のために投入した期間限定メニューがすべて定番化に適しているわけではない。話題性は高くても原価が重く採算が合わないメニューもあれば、逆に地味だが安定してリピートされ、店の看板メニューに育つものもある。
定番化の最大のメリットは、仕入れ・オペレーションが標準化されることによる効率化と、「この店といえばこのメニュー」という指名理由の獲得にある。指名理由となる定番メニューが確立すると、価格競争に巻き込まれにくくなり、リピート率の底上げにもつながりやすい。逆に定番化の判断を誤ると、廃盤にしにくい"惰性メニュー"が増え、メニュー表が肥大化してオペレーション負荷が上がるというデメリットも生じる。したがって、感覚ではなく明確な基準に基づいた意思決定プロセスを社内に持つことが重要になる。
定番化を判断する3つの基準
基準1:売上構成比によるABC分析
もっとも基本的な判断材料は、メニューごとの売上構成比を用いたABC分析である。各メニューの売上(単価×販売数)を高い順に並べ、売上構成比の累計が70%未満のメニューをAグループ(主力)、70〜90%をBグループ(準主力)、90%以上をCグループ(見直し候補)に分類するのが一般的な手法とされる(※2)。期間限定メニューがA〜Bグループに継続的に入ってくるようであれば、定番化の有力候補と判断できる。逆にCグループに沈むメニューは、話題性があっても定番化には適さない可能性が高い。
基準2:FL比率で見た収益性
売れているだけでなく、利益が残るかどうかも定番化の重要な判断軸である。飲食店の収益性を測る代表的な指標がFL比率(食材費+人件費の売上高に対する比率)で、55〜60%程度が平均的な水準、50〜55%程度であれば優良、50%以下は超優良とされる(※3)。期間限定メニューは話題づくりのために原価を厚めに設定しているケースが少なくないため、定番化にあたっては通常オペレーションに乗せた際のFL比率を試算し、店舗全体のFL比率を悪化させない水準に収まるかを確認する必要がある。
基準3:リピート率の実績
売上・利益の基準に加えて、そのメニュー目当てでリピートする顧客がいるかどうかも見極めたい。飲食店のリピート率は業態によって幅があり、カフェ・喫茶店で40〜60%、ラーメン・定食など日常利用の業態で35〜50%、居酒屋で30〜40%、レストラン(中価格帯)で25〜35%程度が目安とされる(※4)。POSデータやアンケートで、期間限定メニューの再注文率や「このメニュー目当てで来店した」という声が一定数確認できれば、定番化後も安定した集客・売上が見込みやすい。
テストマーケティングで定番化の可能性を見極める
3つの基準を判断するには、まず十分な販売データが必要になる。多店舗展開しているチェーンの場合、いきなり全店で定番化するのではなく、特定の店舗やエリアに限定して先行販売し、売上・原価・リピート率などの実データを取得してから全店展開を判断するテストマーケティングの手法が有効とされる(※5)。この段階では、繁忙期・閑散期をまたいで複数回の販売サイクルを経験させ、季節要因を除いた"素の実力"を確認することが望ましい。単発の好調な週末データだけで判断すると、季節性やキャンペーン効果を実力と見誤るリスクがある。
定番化の意思決定プロセスと社内合意形成
定番化の可否は、現場の一存や商品開発部門の判断だけで完結させず、関係部門を巻き込んだ意思決定プロセスとして設計しておくことが望ましい。具体的には、①商品開発部門による売上・原価・リピート実績の集計、②調達部門による通年仕入れの安定供給可否の確認、③店舗運営部門によるオペレーション負荷(調理工程数・提供時間)の評価、という3部門の合意を経て最終決定するフローが実務上機能しやすい。特に調達面では、期間限定販売時は少量スポット仕入れで対応できた食材でも、定番化後は通年で安定調達できるか、価格変動リスクがないかを別途確認する必要がある。
社内での合意形成に使う資料としては、前述のABC分析・FL比率・リピート率のデータを1枚にまとめ、「なぜこのメニューを定番化するのか」を数値で説明できる状態にしておくと、部門間の認識齟齬を防ぎやすい。感覚的な「売れている気がする」という説明では、調達や店舗運営部門の協力を得にくく、定番化後のオペレーション定着にも支障が出やすい。
定番化後にオペレーション定着させるポイント
定番化を決定した後は、期間限定販売時の"特別対応"を、恒常的なオペレーションに落とし込む作業が必要になる。POSマスタやメニュー表への正式掲載、レシピの標準化と調理マニュアルへの反映、新人スタッフへの教育項目への追加などが主な作業項目となる。特に多店舗チェーンの場合、期間限定販売時は一部の店舗でしか提供していなかったメニューを全店で均質に再現できるよう、調理工程の簡素化や食材の規格統一を並行して検討する必要がある。
また、定番化した後も売上・原価・リピート率のモニタリングを止めないことが重要である。定番メニューとして定着した後も、原材料費の高騰や季節による味の変動がないかを定期的に確認し、必要に応じて価格改定やレシピの見直しを行う仕組みを持っておくことで、"定番"の看板メニューとしての品質を維持しやすくなる。既存メニュー全体を対象とした見直しのタイミングについては、グランドメニュー改定の進め方で解説した年間スケジュールの考え方も参考になるだろう。
まとめ
期間限定メニューを定番化する際は、ABC分析による売上構成比、FL比率で見た収益性、リピート率という3つの基準をもとに客観的に判断することが重要である。テストマーケティングで複数の販売サイクルを経たデータを蓄積し、商品開発・調達・店舗運営の各部門が合意できる材料をそろえたうえで意思決定することで、定番化後のオペレーション定着もスムーズに進めやすくなる。感覚ではなくデータに基づいた定番化プロセスを社内に持つことが、指名理由となる看板メニューを育てる近道である。
参考資料
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