タイは日本食レストランの店舗数が5,916店舗(2024年、前年比2.9%増)に達する、日本の飲食企業にとって最大級の海外展開先の一つである(※1)。一方で外国人事業法による出資規制があり、勢いだけで出店すると資本構成や許認可の壁にぶつかりやすい。本記事では、タイ・バンコクへの飲食店出店における外資規制、費用相場、出店形態の選び方を実務目線で解説する。
タイ・バンコク飲食店出店ガイド|費用相場・外資規制・許認可の実務
タイの飲食店市場と日本食レストランの現状
ジェトロの調査によると、2024年時点でタイの日本食レストランは5,916店舗となり、前年の5,751店舗から165店舗(2.9%)増加した。地域別ではバンコク2.7%、バンコク近郊5県2.7%、その他地方3.1%と、いずれの地域でも増加が続いている(※1)。業態別ではそば・うどん(16.1%増)、喫茶(13.1%増)、居酒屋(9.8%増)の伸び率が高い一方、これまで店舗数トップだった寿司は6.8%減の1,279店舗となり、総合和食(1,439店舗)を下回った(※1)。市場が成熟している分、価格帯やコンセプトの差別化ができていない業態は淘汰が進みやすい局面にあるといえる。
タイ出店で必ず確認すべき外資規制(外国人事業法)
タイ出店を検討する際、最初に確認すべきは外国人事業法による外資規制である。同法では、和食店を含む一般のレストラン、フードコート、カフェ、パブ、バー、居酒屋、持ち帰り可能な惣菜店などの飲食店が、外国人事業許可を要する業種に含まれる(※2)。この許可の取得は原則として容易ではなく、外国資本が過半を占める形態での単独出店は事実上難しい。
外国人事業法に基づく許可を取得して事業を行う場合、登録資本金として300万バーツ以上が必要とされる(※2)。この資本金要件は、事業計画の初期段階で資金調達計画に織り込んでおくべき数値である。
なお、一部の外資系企業がタイ人を名義人(ノミニー)にすることで規制を回避しているとの報告があり、タイ商務省はこうした違法行為への監視を強化している(※3)。名義貸しによる規制回避は摘発リスクが高く、事業継続そのものを危うくするため、合弁比率の調整やBOI(タイ投資委員会)の投資奨励業種の活用など、合法的な枠組みでの出店形態を検討する必要がある。
出店にかかる費用の内訳
タイでの飲食店出店にかかる主な費目は以下の通りである。
| 費目 | 目安 |
|---|---|
| 会社設立費用 | 現地代行サービス利用で数十万円規模(※4) |
| 飲食業ライセンス発行料 | 敷地面積200㎡以下で2,000バーツ、201㎡以上は2,000バーツ+1㎡につき4バーツ(上限3,000バーツ程度)(※4) |
| 外国人事業許可を要する場合の登録資本金 | 300万バーツ以上(※2) |
| 商業施設の賃料 | 立地・グレードにより平米あたり1,000〜3,000バーツ以上、人気モールでは売上歩合20〜25%+出店者負担の投資条件もある(※5) |
賃料は特に立地による差が大きい。バンコク都心の商業施設では、小型ユニット(7〜8㎡程度)で月2万バーツ台、20㎡台のユニットで月6万バーツ台という賃貸事例も確認できる(※6)。日系飲食店がすでに入居している商業施設も多く、賃料水準だけでなく周辺テナントの客層・競合状況も出店判断の材料になる。
出店形態の選択肢
外資規制を踏まえると、タイ出店の形態は主に次の3パターンに整理できる。
- タイ資本との合弁会社設立:タイ側パートナーが過半の出資を持つことで外国人事業法の規制対象を外れる形態。パートナー選定の巧拙が事業の成否を左右する。
- BOI投資奨励の活用:対象業種・条件に該当する場合、BOIの投資奨励を受けることで外資規制の一部が緩和される可能性がある。個別に該当性の確認が必要。
- フランチャイズ・ライセンス供与:自社で現地法人を持たず、現地事業者にブランドとレシピをライセンスする形態。初期投資は抑えられる一方、品質・ブランドの現地管理体制の構築が課題になる。
いずれの形態を選ぶ場合も、現地パートナーや代理店の実務対応力を見極めることが重要になる。パートナー選定の視点は海外進出の現地パートナー選び方、フランチャイズ形態での契約設計は日本食の海外FC展開で詳しく解説している。
出店までの主な流れ
タイ出店は概ね以下のステップで進む。
- 出店形態(合弁・BOI活用・FC供与)の方針決定
- 現地パートナー・代理店候補の選定と条件交渉
- 会社設立、または既存パートナー企業との契約締結
- 物件選定・賃貸契約(保証金の交渉を含む)
- 飲食業ライセンスなど各種許認可の取得
- 内装工事・スタッフ採用・メニューのローカライズ検証
- オープン
このうち3〜5のステップは、外資規制の存在により日本国内の出店より時間がかかりやすい。市場選定や進出形態全体の考え方は飲食店の海外進出ガイドも参照してほしい。
よくある失敗パターン
タイ出店で陥りやすい失敗には、以下のようなパターンがある。
- 外国人事業法の規制を軽視し、単独出資での出店を前提に計画を進めてしまう
- 名義貸し(ノミニー)に依存した出資構成を選び、後にコンプライアンスリスクが顕在化する
- 賃料の安さだけで物件を選び、周辺の日本食レストランとの競合状況を確認していない
- 日本のメニューをそのまま持ち込み、現地の嗜好や食材事情に合わせたローカライズを行わない
市場が成熟しているタイでは、出資規制・コスト構造・競合環境のいずれかを見誤ると、勢いだけの出店が失敗につながりやすい。メニューのローカライズで陥りがちな失敗は海外メニューのローカライズ失敗例でも取り上げている。
まとめ
タイは日本食レストランが5,916店舗まで拡大した有望な市場である一方、外国人事業法による出資規制があり、単独資本での出店は原則として難しい。合弁・BOI活用・FC供与のいずれの形態を選ぶ場合も、300万バーツの資本金要件や立地ごとの賃料相場を踏まえた資金計画と、信頼できる現地パートナーの選定が出店成否の鍵を握る。
参考資料
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