日本経済新聞社の飲食業調査(2023年度、主要外食558社が対象で300社が回答)では、2024年度以降に海外出店を拡大する意向の企業が44%でした(※13)。しかし進出の成否を分けるのは「どこに出すか」だけではありません。市場選定、進出形態の選び方、そして現地の味覚・価格帯・食習慣に合わせた「味と業態のローカライズ」まで含めて設計できるかどうかが分岐点になります。本記事では、進出の進め方を手順に沿って整理します。
結論を先に示すと、進出先は3軸で選び、進出形態は4つから目的に応じて選び、5つのステップで進めます。初期費用は国・規模・立地で大きく異なり、たとえばマニラの一等地(BGCやマカティ)では内装・物件取得・厨房設備・ライセンス取得費用を合わせて3,000万〜5,000万円程度が必要になるケースが一般的とされています(※14)。
日本食の海外人気は今どうなっているか
海外の日本食レストラン数の推移
農林水産省は2006年から継続的に「海外における日本食レストラン数」を調査しています。その推移は次のとおりです。
| 調査年 |
店舗数(概数) |
| 2006年 |
約2万4,000店 |
| 2013年 |
約5万5,000店 |
| 2015年 |
約8万9,000店 |
| 2017年 |
約11万8,000店 |
| 2019年 |
約15万6,000店 |
| 2021年 |
約15万9,000店 |
| 2023年 |
約18万7,000店 |
| 2025年 |
約18万1,000店 |
2006年から2023年までの17年間で約7.8倍に拡大しており、和食がユネスコ無形文化遺産に登録された2013年(約5万5,000店)を起点に見ても、2023年時点で約3.4倍に伸びています。地域別では一貫してアジアが最大シェアを占め、2023年調査では全体の約12万2,000店(構成比65%前後)を占めました。
「店舗数が増えている」=「進出しやすい」ではない
一方で、2025年の調査では総店舗数が約18万1,000店となり、2023年から約6,000店減少に転じました。主因は中国の経済停滞によるアジア地域の減少(約1割・約9,600店減)で、中南米・大洋州・中東・アフリカでは引き続き2割前後の増加が続いています。
つまり「日本食は世界的に人気だから、出せば売れる」という段階はすでに終わりつつあります。地域によっては日本食店が飽和し、淘汰が始まっている市場もあります。だからこそ、進出先ごとの需要の質と、現地に合わせた業態・メニューの作り込みが重要になります。
海外進出のメリットと、先に確認すべき前提
海外進出に期待されるメリットは、一般的には次の3点です。いずれも前提条件がそろって初めて成り立つため、先に確認しておく必要があります。
- 販路の拡大:国内市場以外に売上の柱を持てる可能性があります。ただし、出店・運営に耐えられる資金と、現地で運営を担える人材、本部の支援体制が前提になります。
- 価格設定の幅:現地の購買力によっては、国内より高い価格帯で提供できる場合があります。ただし、食材の調達コストや家賃、人件費まで含めて採算を見ないと、利益につながらないことがあります。
- ブランド価値の向上:海外で評価されることが、国内での認知につながる場合があります。ただし、現地で品質を保てる体制がなければ、かえってブランドを損なうおそれがあります。
進出先はどう選ぶか——主要エリアの特徴と難易度
進出先の選定では「親日度・購買力」「市場の成熟度・競争環境」「規制・許認可の複雑さ」の3軸で見るのが実務的です。代表的なエリアの特徴は次のとおりです。
| エリア |
特徴 |
難易度の目安 |
| 台湾 |
親日度が高く、一人当たりGDPは3万3,000ドル前後と購買力も高い。日本食のレベルへの評価眼が肥え、乱立から淘汰・洗練のフェーズに移行済み |
参入障壁は低いが定着難易度は中〜高 |
| ベトナム |
人口1億人超で都市部(ホーチミン・ハノイ)に約3分の1が集中。中間層拡大により「価格より品質・信頼」を重視する消費行動が広がっている |
中価格帯・都市部中間層を狙う中長期型の進出に向く |
| ハワイ(米国) |
日系人口が多く日本食文化が生活に根付いており、現地生まれの日本人シェフも多い。一方で許認可・労務・不動産コストは米国基準で北米他地域と同水準に高い |
文化的な親和性は高いが、コスト・法規制のハードルは高い |
| 東南アジア(マレーシア・インドネシア・タイなど) |
親日層が厚く若年層市場としての将来性が高い。マレーシア・インドネシアなどイスラム教徒比率が高い国ではハラール認証(イスラム法上「合法」であることを示す認証)への対応が事実上必須 |
参入障壁は中程度。ハラール対応の有無で難易度が大きく変わる |
新業態そのものを海外向けに設計し直す観点は、業態開発とは?新業態立ち上げの流れと成功条件を解説もあわせてご参照ください。
進出形態の比較——直営・FC・ライセンス・合弁
海外進出の形態は主に4つに分類されます。それぞれ資金・人材の投下量とコントロール度合いのバランスが異なります。
| 形態 |
概要 |
メリット |
留意点 |
| 直営(独資) |
現地法人を自社で設立し、資金・人材・ノウハウを自社で投下する |
味・オペレーション・ブランドを自社で完全にコントロールできる |
初期投資が大きく、許認可取得や労務管理の負荷も自社で負う |
| フランチャイズ(FC) |
ブランドと運営ノウハウをパッケージ化し、現地パートナーに使用許諾する |
現地パートナーの資金・人脈を活用でき、出店スピードを確保しやすい |
ロイヤリティ(継続的に支払われるブランド使用料)や品質基準の徹底方法を契約で厳密に設計する必要がある |
| ライセンス契約 |
商標やレシピなど一部権利のみを許諾し、運営は現地事業者に委ねる |
自社の投下リソースを最小化できる |
現場運営への関与が薄く、味・サービス品質の維持が難しい |
| 合弁(ジョイントベンチャー) |
現地パートナーと共同で法人を設立し、双方のリソースを持ち寄る |
現地の許認可・商習慣・人脈を補完し合える |
意思決定の権限配分やパートナー選定の巧拙が成否を左右する |
貴社の目的が「まず市場性を確かめたい」のか「ブランドを本格的に根付かせたい」のかによって、選ぶべき形態は変わります。テストマーケティング段階ではFCやライセンス、本格展開段階では直営や合弁を選ぶ、という段階的な考え方があります。FCの契約形態(マスターFC・エリアFCなど)の違いは日本食の海外FC展開|契約形態(マスターFC・エリアFC)の違いと選び方で整理しています。
国別の初期費用と規制の確認ポイント
進出先ごとに、初期費用の考え方と先に確認すべき規制は異なります。本記事では、一次情報で金額を確認できた国は金額を示し、確認できていない国は規制面の確認点のみを示します。
| 国・地域 |
想定規模 |
初期費用の目安 |
主な規制ポイント |
詳しい記事 |
| フィリピン |
マニラの一等地(BGC・マカティ)への出店 |
3,000万〜5,000万円程度(内装・物件取得・厨房設備・ライセンス取得費用の合算、※14) |
レストランは小売業に区分され、外資の出店には払込資本金などの要件がある |
フィリピン飲食店出店ガイド |
| タイ |
— |
本記事では数値を示していません |
外国人事業法により飲食店は外国人事業許可の対象業種とされる |
タイ・バンコク飲食店出店ガイド |
| シンガポール |
— |
本記事では数値を示していません |
食品を扱う店舗はSFAのFood Shop Licenceが必須。酒類提供は別途許可が必要 |
シンガポール飲食店出店ガイド |
| 香港 |
— |
本記事では数値を示していません |
物件契約後に食肆牌照(飲食業許認可)の申請が必要で、交付まで数か月かかる |
香港飲食店出店ガイド |
上表の金額は業態・立地・為替で大きく変わる目安であり、見積もりではありません。台湾・インドネシア・マレーシア・韓国・中国・ハワイ・ベトナムについては、台湾出店にかかる費用完全ガイド、インドネシア飲食店出店ガイド、マレーシア飲食店出店ガイド、韓国出店にかかる費用ガイド、中国(本土)飲食店出店ガイド、ハワイのレストラン出店ガイド、ベトナム飲食店進出の注意点をご覧ください。9市場の外資規制・資本金要件の一覧は海外出店先の国別比較表にまとめています。
海外進出の進め方——5つのステップ
ステップ1:市場調査
進出目的を明確にしたうえで、現地の味覚傾向、想定客単価、競合の出店状況、外資規制や就労ビザの条件を調べます。この段階で「現地で本当に求められている業態は何か」の仮説を立てることが、後工程すべての土台になります。
ステップ2:パートナー選定
物件仲介、法務・会計、施工、現地スタッフ採用など、進出には複数の専門家が関わります。特に現地の商習慣に精通し、進捗をコントロールできる「現場監督」役のパートナーの有無が、工期遅延やトラブルの発生率に直結します。
ステップ3:物件・許認可
物件確保と店舗設計を進めながら、飲食営業許可、酒類販売免許、外資規制に基づく法人設立手続きなどを並行して進めます。国によって許認可の取得枠や取得期間が大きく異なるため、余裕を持ったスケジュール設計が欠かせません。
ステップ4:現地化(メニュー・オペレーション設計)
現地の食材事情や味覚、価格帯に合わせてメニューとオペレーションを設計し直します。日本での再現性を保ちながら、現地スタッフでも標準化して運用できる仕組みに落とし込む工程です。この工程の質が、開業後の集客・リピート率を左右します。現地化に伴うメニュー開発の依頼先の選び方はメニュー開発の依頼先の選び方|コンサル・プロ比較と費用相場で解説しています。
ステップ5:開業・グランドオープン後の運営
現地スタッフの教育、マーケティング、グランドオープン後は、味・オペレーションの標準化状況を継続的にモニタリングし、必要に応じてメニューや価格帯を微修正していく運営体制を整えます。
資金・補助金・商標・現地法人で先に確認すること
5つのステップに入る前に、次の4点を確認しておくと手戻りを減らせます。
資金計画
初期投資に加えて、開業後しばらくの運転資金を含めた総額で計画を立てます。為替の変動や、立ち上がりが想定より遅れる場合の余力も織り込んでおくと安全です。
補助金・助成金
国や自治体の海外展開向け制度が使える場合があります。対象経費や申請時期は制度ごとに異なるため、早めに確認します。詳しくは飲食店の海外進出で使える補助金・助成金|制度選定と申請の実務をご覧ください。
商標の先行出願と冒認出願リスク
進出前に現地で商標を出願しておかないと、第三者に先に出願されるリスクがあります。ブランド名やロゴを使う前に、出願のタイミングを確認しておきます。詳しくは海外展開前に商標登録が必要な理由|冒認出願のリスクと出願のタイミングで解説しています。
現地法人の設立
直営や合弁では、現地法人の設立が必要になる場合があります。必要書類や期間は国ごとに異なります。詳しくは海外出店時の現地法人設立の流れ|必要書類と期間をご覧ください。
成否を分ける最重要論点——「味と業態のローカライズ」
海外進出の成否を最終的に分けるのは、市場選定や進出形態以上に「味と業態のローカライズ」です。ここで言うローカライズとは、日本のレシピをそのまま輸出することではなく、現地の食材事情・味覚の傾向・価格帯・食習慣に合わせて、現地で愛される味へ「翻訳」する作業を指します。
たとえば同じ「醤油ラーメン」であっても、現地で調達できる食材の品質や種類、現地消費者が慣れ親しんだ塩味・甘味・辛味のバランス、外食にかけられる予算感は国・地域ごとに異なります。日本の味をそのまま持ち込むだけでは、現地の日常的な外食選択肢として定着しません。逆に現地化をしすぎると、日本食としてのブランド価値や独自性が薄れてしまいます。「守るべき核」と「変えるべき部分」を切り分け、標準化できるオペレーションに落とし込む設計力が問われます。
このローカライズの巧拙は、単なる出店代行やオペレーション支援だけでは埋められません。味・業態そのものを作り込む専門性が必要になる領域です。専門家による監修を軸にした味づくりの考え方は商品監修とは?依頼方法と費用相場、シェフ選定の要点を解説もご参照ください。ローカライズでつまずきやすい点は海外メニューのローカライズ失敗例|よくある原因と防ぐための実務手順で具体的に整理しています。
進出前チェックリスト
進出を決める前に、次の5区分で確認事項を洗い出しておきます。
市場
法規制
- 外資規制の有無と、出資比率の上限
- 就労ビザの取得条件
- 酒類提供に必要な許可
- 日本から現地への送金に関する規制
サプライチェーン
- 必要な食材を輸入できるか(輸入禁止・制限の有無)
- 現地調達する代替食材の品質が基準を満たすか
- 調達ルートが途切れたときの代替手段
コスト
- 開業後の運転資金を何か月分確保するか
- 為替が動いたときの採算への影響
撤退条件
よくある失敗パターン
- 食材・品質管理の見誤り:現地調達では日本と同等の品質を維持しづらく、輸入コストの膨張や、そもそも輸入が禁止されている食材に気づかず計画を立ててしまうケース
- 法規制・契約リスクの見落とし:ロイヤリティや賃料をめぐる契約トラブル、営業許可・食品衛生基準への対応不足。現地弁護士によるリーガルチェックを省略すると顕在化しやすい
- 現地スタッフへのノウハウ伝承不足:言語や商習慣の違いから、日本式のオペレーションやおもてなしの姿勢が言語化されないまま現場に依存してしまう
- 物件・工期遅延の甘い見積もり:工期に対する責任感や商習慣が日本と異なる国が多く、スケジュールの前提が崩れやすい
- 日本の常識をそのまま持ち込む姿勢:味・接客・マネジメントのすべてを日本基準のまま適用しようとし、現地の食習慣や労働観との乖離に対応しきれない
海外進出を支える支援会社の種類
海外進出を支援する会社は、大きく2つのタイプに分かれます。
オペレーション代行系は、物件情報の紹介、施工会社の手配、許認可取得のサポート、現地スタッフの採用代行など、出店に伴う実務を代行・仲介することを主な役割とします。進出のスピードと実務負荷の軽減を重視する企業に向いています。
味・業態プロデュース系は、それに加えてメニュー開発や業態設計そのものに踏み込み、現地の味覚・食材事情に合わせた「売れるメニュー」への翻訳作業を担います。実務代行だけでは解決できない、味と業態のローカライズという最重要論点に手を届かせられるかどうかが、両者の決定的な違いです。
貴社が求めるのが「早く出店すること」なのか「現地で愛されるブランドに育てること」なのかによって、選ぶべき支援会社のタイプは変わります。
現地パートナーを選ぶ際の見極めの視点は海外進出の現地パートナー選び方|見極める視点と契約前の確認事項、FCで展開する場合の契約形態は日本食の海外FC展開|契約形態(マスターFC・エリアFC)の違いと選び方で解説しています。
まとめ
日本食への関心は世界的に高まっている一方で、地域によっては市場の成熟や競争激化が進み、「出せば売れる」段階は終わりつつあります。進出先の見極め、進出形態の選択、そして何より現地の味覚・食材事情・価格帯に合わせた「味と業態のローカライズ」まで一貫して設計できるかどうかが、海外進出の成否を分けます。市場調査からメニュー開発、現地化まで、どの工程を自社で担い、どこを外部の専門性に委ねるかを早い段階で整理することが、遠回りを避ける近道です。
参考資料
- 農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和7年)の公表について」
- 農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)の公表について」
- ジェトロ ビジネス短信「海外の日本食レストラン数は18万1,000店に(世界、日本)」
- 日本商工会議所 Assist Biz「海外の日本食レストラン数は18.7万店、2年で2割増(農水省調査)」
- 流通ニュース「海外の日本食レストラン/2023年は2021年対比約20%増の約18万7000店」
- スポーツ栄養Web「海外の日本食レストラン店舗数が2年で3割増、15万6,000店に 農水省調査」
- Digima〜出島〜「【2026年最新】台湾進出ガイド|親日市場の攻略法・進出手順・日系企業動向を解説」
- nippon.com「台湾飲食業界で成功するためには〜なぜ日系拉麺店の撤退が相次ぐのか(下)経営戦略編」
- グローカルコネクション「なぜ今、ベトナムなのか?東南アジア7か国データ比較でわかる市場の現在地と飲食トレンド」
- 食品OEMの窓口「東南アジア食品OEM完全ガイド|ハラール認証とローカライズ」
- フードコネクション「【2026年最新】飲食店の海外進出を成功させる完全ガイド|人気エリア比較から開業までの流れを徹底解説」
- Digima〜出島〜「【飲食店が海外進出するメリット】日本食レストランの進出動向や外食産業の市場傾向・3つの注意点(失敗要因)などを解説」
- 日本経済新聞「外食企業、海外出店拡大が4割 和食ブームですしけん引」(2023年度飲食業調査)
- フードコネクション「【2026年最新】フィリピンで飲食店を開業するには」