ベトナムは人口1億人超・中間層拡大を背景に外食市場が拡大を続ける一方、外資規制・許認可の実務や人材定着など、日本とは異なる注意点も多い市場です。本記事では、飲食・食品企業の事業開発担当者向けに、市場動向から出店規制、会社設立の実務、人材面の落とし穴までを整理します。
ベトナム飲食店進出の注意点|外資規制・許認可・人材定着の実務
ベトナム外食市場の今——なぜ注目されているか
ベトナムの実質GDP成長率は2025年に8.0%程度の高い伸びが見込まれており、東南アジアの主要国の中でも際立って高い水準にあります(※1)。人口は2025年時点で約1億230万人に達し、2024年時点で全世帯の56%が安定収入を持つ中流以上の所得階層に分類され、2030年までに中間層人口が全体の60%超に達すると予測されています(※2)。都市部の一人当たり月収も名目ベースで前年比10%超の二桁成長が続いており、「価格より品質・信頼」を重視する消費行動が広がりつつあります(※2)。
外食市場そのものの規模も拡大しています。2024年通年のベトナム飲食市場の売上は689兆ドン(約4.1兆円)と過去最高を更新し、2022年比で約56%拡大しました。2025年上半期の売上も約406兆ドン(約2.4兆円)に達しています(※3)。一方で閉店件数も増加傾向にあり、単価の低い業態が淘汰される一方で、高単価帯・夜需要に対応した業態が伸びるという二極化が進んでいる点には注意が必要です(※3)。日系外食企業の進出も相次いでいますが、多店舗展開を軌道に乗せるには人材育成と業務標準化が鍵になるとされています(※1)。
海外進出全体の考え方や進出形態の比較については、飲食店の海外進出ガイド|市場選定・進出形態・味の現地化を解説もあわせてご参照ください。
出店形態と外資規制——飲食業と小売業の違いに注意
ベトナムへの飲食業進出を検討する際、最初に押さえておくべきが外資規制の構造です。飲食業(レストラン・カフェなどのサービス業)は外国投資家の出資比率に上限が設けられておらず、外資100%の現地法人で出店できます(※4)。この点は東南アジアの中でも比較的開放的な部類に入ります。
一方で注意が必要なのが、店舗で物販(食品・グッズ販売など)を兼業する場合です。小売業には別の規制が適用され、外資系企業が小売を行うにはトレーディングライセンスに加え、店舗ごとにアウトレットライセンス(小売店舗ライセンス)の取得が必要です。さらに2店舗目以降の小売店舗を開設する際は、原則として経済需要テスト(ENT:Economic Needs Test)を経る必要があります(※4)。日本を含むCPTPP加盟国についてはENT規制が撤廃される方向にありますが、個別法令への反映が明確でない部分も残っており、実務上は現時点でも対応が必要になるケースがあります(※4)。「飲食店だから外資規制は関係ない」と考えず、物販を伴う業態かどうかで規制の適用範囲が変わる点を、事業計画の初期段階で法務専門家に確認しておくことが重要です。
外資規制は法改正が頻繁に行われる分野でもあるため、出店計画を固める段階で最新の運用状況を現地の専門家に確認するプロセスを組み込んでおくと、後工程での手戻りを防げます(※5)。
会社設立・許認可の実務フロー
ベトナムで飲食店を開業するための標準的な流れと期間の目安は次のとおりです。
| 工程 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 物件選定 | 登記住所となる店舗物件の確保、賃貸借契約の締結 | 約2ヶ月 |
| IRC取得 | 投資登録証明書(Investment Registration Certificate)の取得 | 約15営業日 |
| ERC取得 | 企業登録証明書(Enterprise Registration Certificate)の取得 | 約3〜5営業日 |
| 各種ライセンス取得 | 食品安全衛生証明書、消防関連ライセンスなどの取得、内装工事 | 約1ヶ月 |
| 合計目安 | 物件選定からグランドオープンまで | 約4〜6ヶ月 |
(出典:※6をもとに作成)
実務上の落とし穴として押さえておきたいのが、これらの許認可は取得の順序に依存関係があるという点です。IRCの申請には登記する住所(賃貸借契約書またはMOU)が必須となり、その後取得する食品安全衛生証明書や消防ライセンスは、その登記住所の物件そのものに対して審査が行われます(※6)。つまり物件が確定しない限り後続の許認可手続きに着手できないため、物件確保が事実上のボトルネック工程になります。日本国内の感覚で「まず会社を作ってから物件を探す」という順序で計画すると、スケジュールが大きく崩れる原因になるため注意が必要です。
また、食品安全衛生ライセンスは取得して終わりではなく、取得後も定期的な更新や報告義務が課されます。これを怠ると罰金や営業停止などのペナルティにつながる可能性があるため、開業後の運用体制にもライセンス管理の担当を明確に組み込んでおく必要があります(※7)。許認可取得の手続きは煩雑なうえ頻繁な法改正も起こり得るため、信頼できる現地の専門家(法務・会計事務所や進出支援会社)と継続的に連携する体制を、出店前の段階から構築しておくことが実務上のポイントです(※7)。
人材採用・定着で失敗しないための注意点
ベトナム進出で見落とされがちなのが、人件費の実額と、採用後の定着施策です。
人件費は額面の1.2〜1.5倍で見積もる
ベトナムでは給与額面だけでなく、社会保険料、テト(旧正月)賞与、残業・深夜手当、福利厚生などを合わせた総人件費で予算を組む必要があります。社会保険料負担だけで額面の約1.2倍、テト賞与や各種手当まで加味すると1.3〜1.5倍以上になるのが実務上の目安とされています(※8)。求人媒体費や福利厚生費も含めた採用コスト全体を、出店計画の初期段階で試算に織り込んでおくことが重要です。
定着率は「透明性」と「言語化」で決まる
飲食業は労働集約的な業態であるため、現地スタッフの定着率が店舗運営の安定性に直結します。定着率を左右する要素として、評価基準の透明性、職場の人間関係、業務手順のベトナム語化が挙げられます。昇給基準を明示し、社内イベントなどのエンゲージメント施策を組み合わせることが有効とされています(※8)。
労務面では、試用期間や本採用後の解雇要件がベトナムの労働法で明確に定められている点にも注意が必要です。本採用後の解雇は法定事由に限定されており、日本の感覚で安易に解雇を進めるとトラブルに発展しかねません。就業規則に評価基準を明記したうえで、採用・評価・解雇の各局面で専門家に確認する体制を整えておくことが、労務リスクを抑える実務上のポイントです(※9)。
現地でのメニュー・オペレーションの標準化そのものについては、メニュー開発の依頼先の選び方|コンサル・プロ比較と費用相場も参考になります。
よくある失敗パターン
- 物件確保前に会社設立を先行させ、スケジュールが崩れる:IRC申請には登記住所が必須のため、物件が確定しないまま計画を進めると後工程がすべて遅延する
- 飲食業と小売業の規制を混同する:物販を伴う業態でありながら、飲食業の外資100%出資が可能という情報だけを鵜呑みにし、ENTなどの小売規制への対応が漏れる
- 人件費を額面給与だけで試算する:社会保険料・賞与・各種手当を織り込まず、開業後に人件費が想定を超過する
- 食品安全衛生ライセンスを「取得して終わり」と捉える:更新・報告義務を怠り、罰金や営業停止につながる
- 現地スタッフへの権限委譲と評価基準の言語化を怠る:日本式の暗黙知に依存したオペレーションのまま展開し、定着率の低下や店舗品質のばらつきを招く
まとめ
ベトナムは人口・中間層の拡大と実質GDP成長率8.0%という高い経済成長を背景に、外食市場が拡大を続ける有望市場です。一方で、飲食業と小売業で異なる外資規制、物件確保が起点となる許認可取得の実務フロー、そして額面給与だけでは見えない人件費の実額や定着率の課題など、日本国内の出店計画とは異なる論点が数多く存在します。市場性の魅力だけで進出を判断せず、規制・許認可・人材面の実務を早期に専門家とすり合わせておくことが、遠回りを避ける近道になります。
参考資料
- ジェトロ「ベトナムに相次ぐ日系外食の進出、人材育成と標準化で多店舗展開」
- wealthatlas「ベトナム人口データ|1億人市場・ゴールデン人口構造・中間層爆発(2026年版)」
- InfoBank「ベトナム飲食売上2.4兆円、閉店急増も高単価夜需要が拡大」
- Digima〜出島〜「ベトナムの外資規制を徹底解説-出資比率の制限とは?投資禁止分野とは?」
- リンオペ「ベトナム外資規制の業種別制限と実務対応」
- フードコネクション「ベトナムで飲食店を開業するための会社設立手順|外資100%法人の期間・費用・注意点」
- I-GLOCAL「飲食業のベトナム進出と店舗展開に伴うライセンス取得の最新実務」
- フードコネクション「ベトナムで飲食店スタッフを採用するといくらかかる?給与・求人媒体・福利厚生を一挙解説」
- ASEAN Bigbeat「ベトナムで起業時の注意点?法務・労務の注意点まで徹底解説」
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