中国本土は世界最大級の外食市場規模を持つ一方、外資規制や商標制度が日本と大きく異なるため、進出形態や事前準備を誤ると想定外のコストやリスクを抱えることになる。本記事では、事業開発担当者向けに、出資形態の選び方、会社設立の流れ、費用の考え方、商標・フランチャイズ規制の実務ポイントを解説する。
中国(本土)飲食店出店ガイド|出資形態・費用相場・商標リスクの実務
中国外食市場の規模と特徴
中国の外食市場規模は2024年に5兆元(日本円で約104兆円)を突破しており、世界的に見ても極めて大きい市場である※1。一方で市場の新陳代謝は激しく、飲食店数はおよそ1,600万店と日本の店舗密度の約2倍に達するとされ、上海市だけでも1日あたり約300店舗が閉店し、同数の新規店舗が開業しているという状況も報告されている※2。市場規模の大きさと入れ替わりの速さが同時に存在する点が、日本国内の感覚とは異なる中国市場の特徴といえる。
出資形態と会社設立の流れ
中国で店舗を運営するには、現地法人(外商投資企業)の設立が必要になる。外商投資企業は、外資100%で経営できる「独資企業」、外資と中国企業が共同出資する「合弁企業」、出資比率によらず契約に基づいて経営する「合作企業」の3種類に大別される※3。2020年施行の外商投資法により、従来の外資三法(中外合資経営企業法・中外合作経営企業法・外資企業法)は統合・廃止され、原則として中国国内企業と同様に会社法が適用される仕組みに整理された※3。
進出可能な業種・出資比率は「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」で定められており、2024年11月に施行された最新版でも、投資が制限・禁止される業種が列挙され、定期的に見直されている※4。外食業は多くの場合ネガティブリストの対象外だが、業態によっては許認可上の条件が付く場合があるため、進出予定の業態・エリアでの最新の規制状況を事前に確認しておく必要がある。
会社設立に要する期間は、独資企業で1か月前後、合弁・合作企業で3か月前後が一般的な目安とされる※3。かつて存在した最低資本金規定は原則廃止されているが、実務上は事業内容に応じた資本金水準を求められる場合があり、飲食店の場合はこれに加えて店舗所在地の担当部門から食品経営許可証を取得しなければ営業を開始できない。許認可の取得は物件契約後に進めることになるため、出店スケジュールには許認可の審査期間も織り込んでおく必要がある。
出店費用の考え方
中国出店にかかる費用は、大きく「会社設立費用」「物件取得費用」「内装・設備投資」「開業後の運転資金」に分けられる。会社設立費用は、独資・合弁といった形態や進出先の地域、依頼する現地専門家によって幅が大きく、事前に複数の現地会計士・弁護士事務所から見積もりを取ることが望ましい。
物件取得の場面で日本と大きく異なるのが、家賃・保証金に加えて前テナントから店舗設備や営業権を引き継ぐ際の「譲渡費用」を求められる商慣習が広く存在する点である※2。譲渡費用の水準は立地や物件の状態によって大きく変動するため、契約前に譲渡費用の有無と金額を必ず確認し、内装・設備投資の予算にどこまで転用できるかを見極めることが、初期投資全体の圧縮につながる。内装工事費や什器設備費についても、都市・商業施設の種類・業態によって相場が大きく異なるため、進出予定エリアの現地パートナーや内装業者から個別に見積もりを取ることが不可欠である。
商標登録は出店前に必ず済ませる
中国は商標について先願主義を採用しており、正当な権利を持たない第三者が他社のブランド名を先に出願・登録してしまう「冒認出願(横取り商標)」のリスクが存在する※5。日本で商標登録済みであっても、中国国内で別途登録していなければ保護されないため、進出を決めた時点で速やかに中国国内での商標出願を進める必要がある。
すでに冒認出願されてしまった場合の対策としては、不使用取消請求、無効宣告請求、公告後の異議申立て、当事者との交渉による商標権の買い取りなどが選択肢になるが、いずれも交渉や手続きに時間とコストがかかる※5。中国の飲食業界向けには、商標登録出願と使用に関するガイドラインも整備されており、市場参入前の対策としては、自社での先行出願に加えて、定期的に中国の商標公報を確認し、類似商標の出願動向を早期に把握しておくことが実務的な防衛策になる。
フランチャイズ展開時の規制
中国でフランチャイズ(商業特許経営)による展開を検討する場合、日本にはない固有の規制に注意が必要である。中国の商業特許経営管理条例では、フランチャイザーが中国国内でフランチャイズ活動を行うために、自ら直営店を2店舗以上、かつ1年を超えて経営していることが条件として定められている※6。この条件を満たした上で、商務部門への届出(備案)を経て初めてフランチャイズ加盟店の募集が可能になる。
このため、フランチャイズによる面的な展開を計画している場合でも、初期段階では直営店を一定期間運営して実績を作る必要があり、直営・合弁による1号店・2号店の出店計画とフランチャイズ展開のタイミングを合わせて設計しておくことが求められる。海外展開全般における契約形態の考え方は日本食の海外FC展開|契約形態の違いと選び方でも解説している。
メニュー・味の現地化における留意点
中国は地域による味の嗜好差が大きく、同じ料理でも都市・所得層によって受容度が異なる市場である。日本の味をそのまま持ち込むだけでは初速で埋没しやすく、現地の消費者ニーズの変化を継続的に把握し、メニューを調整し続ける体制を持てるかどうかが進出後の定着を左右する。メニューローカライズで陥りやすい失敗パターンについては、海外メニューのローカライズ失敗例で詳しく解説しているので、出店計画を固める前に確認しておくとよい。
まとめ
中国本土への飲食店出店は、世界有数の市場規模というメリットがある一方、独資・合弁といった出資形態の選択、外商投資法とネガティブリストに基づく規制確認、譲渡費用を含めた物件取得コストの見極めが必要になる。加えて、先願主義による商標の冒認出願リスクへの対策、フランチャイズ展開時の直営2店舗・1年以上の実績要件など、日本にはない固有の制度への理解が欠かせない。進出を決めた早い段階から現地の専門家と連携し、会社設立・商標登録・許認可取得のスケジュールを一体で組み立てることが、中国出店を軌道に乗せる前提条件になる。
参考資料
FAQ