自店・自社の看板メニューを冷凍食品やレトルト食品として販売したいと考える外食チェーン・食品メーカーの事業開発担当者に向けて、商品化に向くメニューの見極め方、自社製造とOEM委託の判断軸、必要な営業許可、販路の選び方までを解説します。
看板メニューを商品化するには?冷凍・レトルト物販参入の進め方
「看板メニューの商品化」とは何を指すか
看板メニューの商品化とは、店舗で提供している看板メニューを、店舗外でも購入できる冷凍食品・レトルト食品などのパッケージ商品に変換し、通販や小売などの物販チャネルで販売できる状態にすることを指します。
似た言葉に「看板メニューの作り方」がありますが、こちらは店舗内で集客につながるメニューをどう企画・改良するかという店舗運営側の話です。本記事が扱うのは、すでに人気を得ている看板メニューを、店舗という制約から切り離して物販商品として再設計する工程であり、検討すべき論点は営業許可・製造委託・食品表示・販路開拓など、店舗運営とは別の実務が中心になります。
なぜ今、看板メニューの物販参入が現実的な選択肢なのか
日本冷凍食品協会の速報値によると、2025年の国内冷凍食品の工場出荷額は前年比6.4%増の8,577億円で、7年連続の増加となりました。このうち家庭用は金額ベースで前年比9.6%増の4,458億円となり、業務用(4,119億円)を上回っています※1。数量ベースでは業務用が家庭用をやや上回るものの、金額ベースでは家庭向け商品の伸びが業務用を上回っている点は、単価の取りやすい商品設計ができれば家庭向け物販に商機があることを示しています。
外食チェーンや食品メーカーにとって、看板メニューはすでに一定の支持を得ている「検証済みの企画」です。ゼロから新商品を開発するよりも、既存の人気メニューを物販向けに再設計するほうが、商品コンセプトの検証コストを抑えられる場合が多く、店舗の集客資産を物販という別チャネルの売上に転換できる点が、参入を検討する動機になっています。
商品化に向くメニュー・向かないメニューの見極め方
すべての看板メニューが物販化に適しているわけではありません。検討の初期段階で、次のような観点から向き不向きを見極めておくと、その後の工程が進めやすくなります。
- 提供直後の食感・温度が価値の中心かどうか:揚げたての衣のサクサク感、炊きたての米の食感などは、冷凍・レトルト化の過程で再現が難しくなりやすい傾向があります。
- 味の骨格がソース・タレ・出汁にあるか:煮込み料理やタレ・出汁が主役の料理は、再加熱後も味の再現性を保ちやすく、物販化の初弾候補になりやすい傾向があります。
- 原材料の入手安定性:季節限定の食材や仕入れ量が限られる食材を使う場合、量産段階での安定調達が課題になりやすくなります。
- 店舗の看板性を損なわないか:物販商品の品質が店舗の味と乖離すると、ブランドイメージに影響する可能性があります。試食による社内評価を経てから進める企業もあります。
進め方の全体像
看板メニューの物販参入は、おおむね次の流れで進みます。
- 商品化候補の選定と社内合意:上記の観点で候補メニューを絞り込み、物販化の目的(売上拡大か、ブランド認知拡大か)を明確にする
- 自社製造かOEM委託かの判断:初期投資・スピード・ノウハウ保持の観点で製造方式を決める
- 営業許可の取得:商品カテゴリーに応じた製造業許可を取得する(後述)
- 試作・レシピ調整:量産環境での再現性を確認し、レシピを微調整する
- 食品表示・パッケージ設計の確定:食品表示法に基づく義務表示事項を確定し、パッケージデザインを制作する
- 販路の選定と発売:通販単体で始めるか、小売流通も視野に入れるかを決めて発売する
自社製造とOEM委託、どちらを選ぶか
物販参入における最初の大きな判断が、自社で製造設備を持つか、OEM委託で製造を外部化するかです。
| 比較軸 | 自社製造 | OEM委託 |
|---|---|---|
| 初期投資 | 急速冷凍機・製造ラインなどが必要で大きい | 製造設備投資が不要で始めやすい |
| 商品化までの期間 | 設備導入・稼働までに時間がかかる | 既存設備を使うため比較的短期間 |
| レシピ・製法の秘匿性 | 自社内で完結し外部への開示が少ない | 委託先にレシピ・製法を開示する必要がある |
| 生産量の柔軟性 | 稼働率次第でコストが変動しやすい | ロット単位で発注量を調整しやすい |
| ノウハウの蓄積 | 製造ノウハウを自社に蓄積できる | 委託先の技術・設備を活用できる |
テスト販売段階ではOEM委託で需要を検証し、量産が確定した段階で自社設備を検討するという段階的なアプローチをとる企業も見られます。OEM委託の具体的な流れや費用相場、委託先選定のポイントは、冷凍食品の商品開発を委託する方法|OEM活用の流れと費用相場を解説で詳しく解説していますので、OEM委託を軸に検討する場合はあわせてご確認ください。
必要になる営業許可
看板メニューを店舗外で販売するには、既存の飲食店営業許可とは別の許可が必要になります。飲食店営業許可はあくまで店内での飲食提供に対する許可であり、店舗の厨房で作った料理を店舗外で販売するには、商品カテゴリーに応じた製造業許可が別途必要です。
たとえば、煮込み料理などを冷凍で販売する場合は「冷凍食品製造業」、複数の品目を組み合わせて冷凍販売する場合は「複合型冷凍食品製造業」の許可が必要になります。ソース・タレなどを別品目として扱う場合は「調味料等製造業」、麺料理を扱う場合は「めん類製造業」など、メニューの構成要素によって必要な許可が変わる点に注意が必要です。各施設には食品衛生責任者の配置も必須ですが、すでに飲食店で配置している場合は新たな取得が不要なケースもあります。許可の要否は施設や地域によって判断が分かれるため、着手前に所轄の保健所へ事前相談しておくことをお勧めします。
自社製造ではなくOEM委託を選ぶ場合は、委託先の工場がすでに必要な許可を保有しているため、自社で新たに許可を取得する必要がない場合が一般的です。この点も、自社製造とOEM委託を比較する際の判断材料になります。
食品表示で確認しておくべきこと
物販商品として販売する以上、食品表示法に基づく義務表示への対応が必要です。名称、原材料名、添加物、アレルゲン、内容量、期限表示、保存方法、製造者などを一括表示として記載する必要があり、詳細は消費者庁の公開情報で確認できます※2。委託先が表示原稿の作成を支援してくれる場合でも、表示内容の適正性についての責任は、多くの場合、商品を販売する自社側が負う点を踏まえ、契約段階で作成範囲と責任分担を明確にしておくことが重要です。
販路の選び方:通販単体か、小売流通も見据えるか
物販参入の初期段階では、自社ECサイトやモール型通販での直販から始めるケースが多く見られます。個人店が少量からEC直販を試みる事例も公開されていますが※3、外食チェーンや食品メーカーが本格的に物販事業として取り組む場合は、通販で需要を検証したうえで、スーパーや量販店といった小売流通への展開も視野に入れる進め方が現実的です。
小売流通に展開する場合は、通販とは異なり、バイヤーへの提案資料、店頭で目を引くパッケージデザイン、一定量を継続的に供給できる生産体制が追加で求められます。通販段階で得られた販売実績やレビューは、小売提案の際の説得材料としても活用できます。
よくある失敗と回避策
- 店舗の味との乖離に気づかず発売してしまう:量産環境での試作を十分に重ねず発売し、常連客からの評価が下がるケースがあります。試食による社内評価のプロセスを商品化フローに組み込んでおくことが有効です。
- 許可取得のスケジュールを見誤る:保健所への事前相談を後回しにし、発売時期が後ろ倒しになるケースがあります。商品化候補が決まった時点で早めに相談しておくと計画が立てやすくなります。
- 販路を決めずに製造を進めてしまう:通販想定と小売想定ではパッケージサイズや供給量が変わるため、販路の方向性を決めてから製造仕様を固めることが重要です。
まとめ
看板メニューの商品化は、店舗という制約を離れて物販商品として再設計する取り組みであり、店舗内の看板メニュー開発とは別の実務判断が必要です。商品化に向くメニューの見極め、自社製造とOEM委託の比較、営業許可の取得、食品表示への対応、販路の選定という一連の流れを押さえたうえで、家庭用冷凍食品の金額ベースでの伸びという市場環境も踏まえて検討を進めることをお勧めします。自社製造かOEM委託かで迷う場合は、まずOEM委託の流れと費用相場を把握したうえで比較すると判断がしやすくなります。
参考資料
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