新商品を発売する際、「賞味期限は何日に設定すればよいのか」で手が止まる食品メーカーの商品開発担当者は多い。賞味期限は日数の一覧表があるわけではなく、保存試験という科学的根拠に基づいて事業者自身が設定する必要がある。本記事では保存試験の進め方、安全係数の考え方、加速試験の活用法を実務目線で解説する。
食品の賞味期限設定方法|保存試験・安全係数・加速試験の進め方
賞味期限は誰が、何を根拠に決めているのか
賞味期限・消費期限はどちらも、食品を製造・加工した事業者自らが科学的根拠に基づいて設定するものであり、行政が日数を指定しているわけではない(※2)。消費者庁は令和7年3月に改定した「食品期限表示の設定のためのガイドライン」で、個々の食品の特性に応じて「客観的な指標」を定め、試験によって得られた結果をもとに期限を設定する考え方を示している(※1)。
ここでいう客観的な指標とは、理化学試験・微生物試験・官能検査のように数値化・言語化が可能な項目を指す。思いつきや他社商品からの類推で期限を決めるのではなく、自社の原材料・製法・包装形態に即した試験を行った上で設定することが、食品表示法上求められる対応である。
「賞味期限5日ルール」はすでに廃止されている
実務でよく誤解されるのが、「賞味期限が5日以内なら消費期限、それより長ければ賞味期限」という区分だ。この考え方は期限表示制度が導入された平成7年(1995年)当時に存在したが、用語の定義に基づいた期限設定とはいえないとして平成20年(2008年)に解消されており、現在の消費者庁ガイドラインでもこの日数区分は採用されていない(※3)。
現在の整理では、品質の劣化が急速に進み安全性を欠くおそれが生じるまでの期間が短い食品には消費期限を、品質がある程度安定していて劣化が緩やかな食品には賞味期限を用いる、という食品特性に基づいた判断が基本となる。日数だけを基準に「うちの商品は日持ちが短いから消費期限」と機械的に判断するのではなく、保存試験の結果をもとに品質保持の実態に即して選ぶ必要がある。
保存試験で見る3つの指標
賞味期限の設定に用いられる客観的な指標は、大きく3種類に分けられる(※1、※4)。
| 指標 | 試験内容 | 主な評価項目の例 |
|---|---|---|
| 理化学試験 | 食品の化学的・物理的な変化を数値で測定 | 酸価・過酸化物価、粘度、色調、水分活性など |
| 微生物試験 | 保存中の微生物の増殖を測定 | 一般生菌数、大腸菌群、食中毒菌の有無など |
| 官能検査 | 人の感覚による品質評価 | 味、におい、外観、食感の変化 |
すべての食品で3項目すべてを実施する必要があるわけではなく、食品の特性やリスクに応じて必要な項目を絞り込むことが可能である。業界団体が作成した期限設定に関するガイドラインがある品目については、それを参考に試験設計を行うことで、過不足のない試験計画を立てやすくなる(※4)。
実測試験と加速試験の使い分け
保存試験には、実際に販売する温度帯・包装形態で保存して品質変化を追う「実測試験」と、保存温度をあえて高く設定して劣化を早め、短期間で結果を得る「加速試験」の2種類がある。
加速試験は、化学反応速度が温度の上昇に伴って加速する性質(Q10値・アレニウスの式)を利用するもので、Q10値は温度が10℃上昇したときの反応速度の増加倍率を示す(※4)。新商品の発売スケジュールに対して実測試験の期間を十分に確保できない場合、加速試験を組み合わせることで設定作業を前倒しできる。
ただし、食品によっては高温下で通常の保存温度とは異なる劣化反応(例えば脂質酸化の経路の変化など)が進むケースがあり、加速試験の結果をそのまま鵜呑みにするのはリスクがある。可能であれば実測試験と並行して加速試験を行い、両者の傾向に大きな乖離がないかを確認した上で期限を設定することが望ましい。
安全係数のかけ方
保存試験によって「この期間までは品質が保持されている」という結果が得られても、そのままの日数を賞味期限として表示するわけではない。食品の特性に応じて1未満の係数(安全係数)をかけ、試験で確認された期間よりも短い期間を賞味期限として設定するのが基本的な考え方である(※1、※4)。
安全係数には0.8程度を用いる例が多く、例えば保存試験で30日まで品質保持が確認できた場合、30日×0.8=24日を賞味期限とするといった計算になる(※4)。これは原材料のロットばらつき、店舗・物流段階での温度変動、個体差といった試験室内では再現しきれない要因を見込んだマージンである。品質ばらつきが大きい食品や、保存状態の管理が実務上難しい流通チャネルを想定する場合は、より保守的な係数(0.7程度など)を検討する余地がある。
自社対応と外部委託の判断基準
理化学試験や微生物試験には専用の分析機器と検査体制が必要であり、特に微生物試験は無菌操作や培養環境の整備が求められるため、自社に試験設備がない食品メーカーも少なくない。この場合、食品検査機関への委託が現実的な選択肢になる。
委託先を選ぶ際は、対象食品カテゴリーでの試験実績、理化学・微生物・官能検査をワンストップで対応できるか、加速試験の設計に対応できるかといった点を確認したい。OEM先に製造を委託する場合は、賞味期限設定の試験も含めて対応してもらえるかどうかを契約前に確認しておくと、発売スケジュールの手戻りを防ぎやすい。委託先選定の視点は食品OEM委託先の選び方|8つの選定基準と見積比較のポイントで詳しく解説している。また、賞味期限が決まった後の食品表示(一括表示)作成については、食品表示(一括表示)の作成代行|依頼先と費用、法令チェックの要点も参考にされたい。
まとめ
賞味期限は法令で一律に決まるものではなく、事業者自らが保存試験を通じて科学的根拠を持って設定するものである。理化学試験・微生物試験・官能検査という客観的指標をもとに、実測試験と必要に応じた加速試験を組み合わせて品質保持期間を把握し、そこに安全係数(0.8程度が目安)をかけて最終的な日数を決める、という流れが基本となる。「賞味期限5日ルール」のような古い通説に頼らず、最新の消費者庁ガイドラインに沿って自社商品の特性に合った試験設計を行うことが、表示ミスや期限設定の根拠不備を防ぐ鍵となる。
参考資料
FAQ