海外出店では、味のローカライズや店舗運営の体制づくりに注目が集まりやすい一方、実務上つまずきやすいのが食材調達です。現地で調達できない原料を日本から輸入すればコストと物流の負担が増し、現地調達に切り替えれば品質や規制対応の壁に当たります。本記事では、現地調達と輸入をどう使い分けるか、典型的な失敗パターンとサプライチェーン構築のステップを解説します。
海外出店の食材調達とサプライチェーン|現地調達と輸入の使い分け方
なぜ食材調達が海外展開のボトルネックになりやすいのか
海外販路開拓に携わる担当者を対象にした調査では、海外展開における最大の課題として「輸送・物流コストの高さ」が36.1%で最多となり、次いで「輸出先国の食品規制・輸入規制への対応」が32.4%で続いています※1。味のローカライズやマーケティングに先立って、原料をどう安定的に・採算の取れるコストで確保するかという調達・物流の問題が、現場では最も重い負担になっていることがうかがえます。
この傾向は外食業態の海外出店でも同様です。日本産の生鮮食材を現地で販売しようとすると、輸送コストが上乗せされて日本国内の数倍の価格になることが珍しくありません。特に東南アジアでは、日本では一般的な小口の冷蔵輸送網が未発達で、温度管理が不安定なために輸送量の約半分が廃棄されてしまうこともあり、その廃棄コストは最終的に販売価格に転嫁されます※2。輸入に依存するほど、価格競争力と品質の両方が損なわれやすくなるのです。
現地調達と輸入、それぞれのメリット・デメリット
食材調達の方式は、大きく「輸入型」「現地調達型」「ハイブリッド型」の3つに分けられます。
| 方式 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 輸入型(日本から輸送) | 味の再現性が高い、品質基準をコントロールしやすい | 物流コストが高い、賞味期限・リードタイムの制約、為替変動の影響を受ける |
| 現地調達型(現地サプライヤーから確保) | コストを抑えやすい、鮮度・リードタイムで有利 | 品質・規格が日本基準と異なる場合がある、ロットが自社の使用量と合わないことがある |
| ハイブリッド型(品目ごとに使い分け) | 味の再現性とコストのバランスを取れる | サプライヤー管理が複雑になり、調達体制の構築に時間がかかる |
味の再現性に直結する独自の調味料・ソース・加工品は輸入を続け、生鮮野菜や米、一般的な調味原料は現地調達に切り替えるというハイブリッド型を採る企業が多いのが実情です。どの品目を現地化できるかは、現地の生産事情や規制によって国ごとに異なるため、個別に見極める必要があります。海外出店先の規制・市場環境の違いについては、以下の記事で国別に比較しています。
食材調達でよくある失敗パターン
ロットが合わず現地調達に踏み切れない 現地のサプライヤーは大ロットでの取引を前提にしていることが多く、新規出店直後で使用量が少ない段階では、最小発注量が自社の需要と合わず、やむを得ず輸入に頼り続けることになるケースがあります。
規制で原料が使えないことに出店後に気づく 現地の食品添加物規制や輸入規制によって、日本で標準的に使っている原料や調味料がそのままでは使用・輸入できないことがあります。例えばハラール認証の取得を前提とする市場では、醤油や食用油などの原料をハラール認証品に切り替え、みりんのようなアルコールを含む調味料は使用できないなど、処方自体の見直しが必要になります※3。こうした規制は出店準備の早い段階で確認しておかないと、メニュー設計のやり直しにつながります。ハラール認証の取得手続きについては以下の記事で詳しく解説しています。
単独サプライヤーへの依存 現地調達先を1社に絞ると、価格交渉力を失うだけでなく、供給停止や品質トラブルが起きた際に店舗運営そのものが止まるリスクを抱えます。
サプライチェーン構築の進め方
食材調達の体制は、以下のステップで段階的に構築するのが基本です。
- 品目ごとの調達方針を決める:味の再現性・コスト・現地での入手可能性を品目別に評価し、輸入か現地調達かを仕分ける。
- 現地サプライヤーを複数調査する:ロット・品質・衛生基準・価格の4点を基準に、主要原料について2社以上の候補を確保する。
- 規制・通関要件を確認する:対象国の輸入規制、添加物規制、検疫基準を品目ごとに確認し、使用できない原料があれば処方を見直す。
- 物流ルートとコールドチェーンを設計する:生鮮食材を扱う場合は、現地の温度管理・配送網の実情に合わせた物流設計を行う。農林水産省も、生産から現地販売までを一体で支援する「戦略的サプライチェーン」の構築や、海外でのコールドチェーン整備を後押ししている※4。
- 品質管理・モニタリング体制を整える:現地サプライヤーの品質を定期的に確認する仕組み(検査・監査・サンプリング)を運用に組み込む。
品質管理の運用では、受入検査の基準・頻度と、問題発生時にサプライヤーへ是正を求める手順をあらかじめ文書化しておくと、現場の判断がぶれにくくなります。立ち上げ初期は輸入比率が高くなりがちですが、出店後の売上拡大に合わせて現地調達への切り替えを段階的に進め、品目ごとの調達コストと品質を定期的に見直す運用にしておくと、店舗数が増えた際にも調達体制を拡張しやすくなります。
現地のサプライヤー網や物流網をどれだけ持っているかは、現地パートナーの実務能力そのものでもあります。パートナー選定の段階で調達面の実績も確認しておくと、後工程の手戻りを防げます。
規制対応で見落としやすいポイント
輸入規制は国によって対象品目も頻度も異なります。ある国では日系企業が、動植物検疫の頻度やタイミングの多さ、輸入規制対応の負担の重さを課題として挙げており、規制対応に要するコストや時間が事業計画に見込まれていないと、出店後の採算を圧迫する要因になります※5。進出前の段階で、対象国の輸入規制・検疫基準・添加物規制を品目単位で確認し、規制対応に必要なコストと時間を事業計画に組み込んでおくことが欠かせません。
まとめ
海外出店における食材調達は、味のローカライズと並んで事業の採算性を左右する重要な要素です。輸入型・現地調達型・ハイブリッド型のどれを選ぶかは品目ごとに判断し、現地サプライヤーのロットや品質基準、輸入規制・添加物規制への対応を出店前に確認しておく必要があります。単独サプライヤーへの依存を避け、複数の調達ルートと品質モニタリング体制を整えることが、長期的に安定した店舗運営につながります。
参考資料
FAQ