飲食店や食品メーカーが海外出店・海外展開を計画する際、初期費用や渡航・調査コストの負担を軽くする手段として補助金・助成金の活用が選択肢に入る。本記事では、外食チェーンや食品メーカーの事業開発担当者向けに、海外展開で使える主な公的支援制度の種類と、申請時に注意すべき実務ポイントを整理する。
飲食店の海外進出で使える補助金・助成金|制度選定と申請の実務
海外進出時に補助金・助成金を検討すべき理由
海外出店には、現地法人設立費用、保証金・敷金、内装・厨房設備、渡航費、市場調査費、通訳・翻訳費など、国内出店にはない支出項目が発生する。これらすべてを自己資金と融資だけで賄おうとすると、初年度のキャッシュフローが圧迫されやすい。公的な補助金・助成金は返済不要である点が融資と異なり、特に海外事業の実績がまだ少ない企業にとっては、渡航費や専門家活用費用の一部を補うだけでも投資判断のハードルを下げる効果がある。
ただし補助金は「申請すれば必ずもらえる」ものではなく、公募期間・審査・交付決定・実績報告という一連のプロセスを経る必要がある。海外出店のスケジュールと補助金の交付時期がずれると、店舗オープンに間に合わないリスクもあるため、補助金はあくまで資金計画の上乗せとして位置づけ、自己資金・融資による計画を軸に据えるのが実務上の基本である。
飲食・食品分野の海外展開で使える主な制度
2026年度時点で、飲食店・食品メーカーの海外展開に関連する代表的な公的支援制度は以下の通りである。
| 制度名 | 運営 | 対象・特徴 | 補助率・上限目安 |
|---|---|---|---|
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(グローバル枠) | 中小企業庁 | 海外市場開拓に向けた国内の製造・輸出体制強化のための設備投資、海外旅費・通訳翻訳費も対象経費に含まれる | 補助率2/3、上限額は賃上げ特例適用で最大9,000万円※1 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 中小企業庁 | 海外展示会出展、多言語サイト制作、渡航費・出展費など販路開拓の取り組みが対象 | 補助率2/3(赤字事業者3/4)、上限額は特例活用で最大250万円※2 |
| 日本の食輸出1万者支援プログラム | 経産省・農水省・中小企業庁・JETRO・中小機構 | 農林水産物・食品の輸出に取り組む事業者向けに、相談対応・専門家伴走支援・貿易実務講座の割引などを提供 | 登録は無料、個別支援の内容は事業者ごとに異なる※3 |
| 中小企業海外展開現地支援プラットフォーム | JETRO | 海外に進出済み・進出予定の中小企業向けに、現地事務所やアドバイザーが相談対応 | 無料※4 |
上記のうち、ものづくり商業サービス補助金や持続化補助金は年に複数回公募があり、公募要領が改定されることも多いため、申請を検討する際は必ず最新の公募要領を制度運営元のサイトで確認する必要がある。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(グローバル枠)
従来の「ものづくり補助金」と「事業再構築補助金」系の枠組みが統合・再編された制度で、海外市場開拓に取り組む中小企業向けに「グローバル枠」が設けられている。対象は自社製品・サービスを活用した新たな海外販路開拓に必要な、国内の製造・提供体制の強化にかかる設備投資が中心だが、海外旅費や通訳・翻訳費も対象経費に含められる点が、海外展開を検討する事業者にとって使いやすい特徴になっている。補助上限額は賃上げ特例の適用有無で変動するため、自社が特例要件を満たせるかを早い段階で確認しておきたい。
小規模事業者持続化補助金
従業員数が一定規模以下の小規模事業者が対象で、経営計画に基づく販路開拓の取り組みに使える。海外展示会への出展、多言語対応のWebサイト制作、渡航費などが対象経費に含まれるため、海外の見本市への出展を足がかりに海外展開を検討している事業者との相性がよい。基本の補助上限額に対し、賃金引き上げ特例などを組み合わせることで上限額が引き上げられる仕組みになっている。
日本の食輸出1万者支援プログラム
農林水産物・食品の輸出拡大を目的に、経済産業省・農林水産省・中小企業庁・JETRO・中小機構が連携して運営するプログラムである。登録すると、輸出に関する相談対応や専門家による個別の伴走支援、貿易実務に関するオンライン講座の割引などが受けられる。飲食店が海外に店舗展開する場合は直接の対象になりにくいが、自社商品を海外に輸出しながら現地店舗展開を検討するような食品メーカー・外食チェーンにとっては、輸出と店舗展開の両輪を支援してもらえる窓口として活用余地がある。
補助金以外に使える支援制度
補助金以外にも、JETROは海外展開に関する相談・情報提供サービスを幅広く無料で提供している。中小企業海外展開現地支援プラットフォームでは、現地に駐在するアドバイザーに市場動向や規制情報を相談できる。また日本政策金融公庫や各地の信用保証協会には、海外展開を目的とした融資制度も用意されており、補助金でカバーしきれない初期投資部分は融資で補うという組み合わせが一般的である。自治体独自の海外展開支援策(渡航費補助、専門家派遣など)が用意されている地域もあるため、本社所在地の自治体・商工会議所にも合わせて確認するとよい。
申請の実務ポイントと注意点
補助金申請では、事業計画書の作成が最大の負担になることが多い。海外出店の場合、市場規模・競合状況・収支計画・撤退基準まで含めた具体性の高い計画が求められるため、社内に海外事業計画の作成経験者がいない場合は、中小企業診断士や認定支援機関に計画書作成の支援を依頼するのも一案である。
また補助金は原則として「後払い」であり、実際の支出を先に行い、実績報告を経てから補助金が入金される流れが一般的である。海外出店のように支出が先行しやすい事業では、つなぎ資金をどう確保するかを申請前に検討しておく必要がある。加えて、同一経費に複数の補助金を重複して充当することはできないため、渡航費・設備投資・広告宣伝費など経費項目ごとにどの制度を使うかを整理しておくと、申請書類の作成もスムーズになる。
まとめ
飲食店・食品メーカーの海外進出では、ものづくり商業サービス補助金のグローバル枠や小規模事業者持続化補助金など、返済不要の公的支援を活用できる余地がある。ただし公募スケジュールや対象経費は制度ごとに異なり、交付は後払いが基本であるため、補助金頼みの資金計画は避け、自己資金・融資を軸にした計画に補助金を上乗せする形で検討するのが実務上安全である。制度選定に迷う場合は、JETROや商工会議所などの無料相談窓口をまず活用したい。
海外出店そのものの進め方については飲食店の海外進出ガイド、現地パートナーとの契約検討には海外進出の現地パートナー選び方も参考にしてほしい。
参考資料
FAQ